1970年代のジャッキーチェン出演作の製作年を探る連載シリーズ第6回は、初主演の『廣東小老虎』が公開されず、仕事も無くなってきたジャッキーが香港とオーストラリアを行ったり来たりする羅維時代直前までの動きを追っています。
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( 疑惑の女子跆拳群英會 |花飛滿城春 |拍案驚奇 |密宗聖手 |少林門 ) - 今回の対象作品まとめ
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自伝の記述を確認
自伝「I AM JACKIE CHAN―僕はジャッキー・チェン」でのこの頃の記述をまとめると、
ダディ(大地影業)での2作品の失敗、ギャラも支払われなかった19歳のジャッキーは両親のいるオーストラリアへ行くことを決意する。
しかし、6ヶ月間両親の元で過ごしたジャッキーは、新しい契約があると両親に嘘をつき再び香港へ舞い戻るのだった。
香港に戻ったジャッキーだったが、仕事のアテもなく、気乗りしないながらもサモハンに連絡をする。
1ヶ月先にアシスタントの仕事があると言われるが、すぐ仕事が欲しいと頼み込み、新人の吳宇森(ジョン・ウー)が監督する『少林門』に出演させてもらう。
その後はサモハンの下でアシスタントやスタント等の仕事で一生懸命働いたジャッキーだったが、ブルース・リーの死後香港映画界はアクション離れをおこし、サモハンのゴールデンハーベストも低予算でコメディー作品が増えていたため、次第に仕事を見つけることが難しくなっていた。
そしてサモハンから、再び両親のいるオーストラリアへ戻ったほうがいいと言われてしまう。
切符代すらなく途方に暮れるジャッキーのもとに初恋の人オー・チャンが現れ大金を貸してもらい、二度と香港には戻らないと決意し、オーストラリアへ再度旅立った。
20歳のジャッキーは公立の学校で基礎英語のクラスに通うも退学し、建築現場と中華レストランの厨房の仕事を掛け持ちすることに。
そんなジャッキーのもとに後にジャッキーのマネージャーとなるウィリー・チェンから連絡が入り、羅維(ロー・ウェイ)の新作映画の主役の話が舞い込む。
ジャッキーは両親に2年間での成功という条件付きで再び香港へ戻ることを許してもらい、ふたたび成功を夢見て香港へと戻るのだった。
また、自伝「愛してポーポー」では、
仕事に明け暮れるジャッキーの収入はグングン増えたため、酒を浴びるように飲み、無免許運転、スピード違反なども平気でするようになり、普通の遊びでは飽き足らずバクチにも手を出すようになっていった。
バクチで全財産をなくしたジャッキーのもとに、父親からオーストラリア行きの航空券が入った手紙が届く。
失意のジャッキーはオーストラリアで一生懸命、一から出直すことを誓い香港をあとにする。
9か月ほどオーストラリアで左官の仕事をしていたジャッキーだったが、香港が恋しくなったジャッキーは父親にまだ映画の契約が残っているとウソをつき、香港へと戻ることに。
結局、また前とおなじような生活になり、バクチにも再び手をだしてしまうジャッキーだったが、仕事には少し張りも出てきてスタント以外にも武術指導の仕事もするようになっていた。
『香港過客』(1972・ショウブラザーズ)の撮影時に監督から「武術指導をやってみないか」誘われ引き受けるがその映画はヒットはしなかった。
そのあと、『四王一后』に出演。その後、『碼頭龍虎闘(碼頭大決鬥の間違いと思われる)』の時、ある俳優に演技指導しているところをプロデューサーが見かけ、次回作で主演をやらないかと誘われる。そうして初主演した『廣東小老虎』だったが、香港では公開されなかった。
その後はしばらく武術指導の助手として働き、『少林門』の時からみ役をやりながらゴールデンハーベストでは、はじめての武術指導をやる。
このころ、香港ではアクション映画がほとんど作られなくなっており、将来に不安を感じたジャッキーはもう一度オーストラリアで人生をやり直すことを決心。
初恋の人にお金を借り、オーストラリアへ再び舞い戻ったジャッキーは、以前の左官の仕事の後に英語の学校、夜は功夫の練習に明け暮れた。
そんなジャッキーのもとに後にジャッキーのマネージャーとなるウィリー・チェンから連絡が入り、羅維(ロー・ウェイ)の新作映画の主役の話が舞い込む。
ジャッキーは両親に2年間での成功という条件付きで再び香港へ戻ることを許してもらい、ふたたび成功を夢見て香港へと戻るのだった。
と書かれています。
多少の差はあるものの、
「一度オーストラリアへ行き、再び香港へ。アシスタントの仕事や『少林門』に出演後、不況で再びオーストラリアへ初恋の人にお金を借りて戻る。羅維映画の主演話が舞い込み2年以内の成功を条件に親を説得し再び香港へ」
と、大まかなところは大体合っているようです。
本章では、このころ数本の出演作しか判明していないジャッキーの約3年間の行ったり来たり生活を探ってみたいと思います。
各作品を調査
疑惑の女子跆拳群英會
『過客』で一緒に仕事をした呉宇森(ジョン・ウー)監督の次回作『女子跆拳群英會』で、1975年3月公開作品。(韓国では74年6月公開)
ジャッキーチェンが武術指導をしたともいわれるこの作品は、74年1月に撮影が開始されたようです。
自伝「僕はジャッキーチェン」の巻末フィルモグラフィーには「僕はこの映画のスタントコーディネーターだった。」と記述がある。
『過客(鐵漢柔情)』も載っているため、単純な取り違いでも無さそう。
しかし、ジャッキーはこの作品には関わっていないとの説もあり。
参加経緯としては、呉宇森の線であり得ることだし、時期的にも可能といえば可能なので、何とも言えないのですが、一応エントリーしておきました。
花飛滿城春
『頂天立地』や『女警察』でジャッキーを起用した朱牧監督作品。功夫映画が下火となり、仕事が激減したジャッキーが出演した非アクション映画です。
公開は75年2月、撮影は74年の10月から11月に行われていたようです。
- 新聞記事:1974年10月21日『工商日報』|「花開春満城」撮影
- 新聞記事:1974年11月18日『工商日報』|撮影終了
ジャッキーは2話オムニバスの後半の主役。しかしアクションはなし、ベッドシーンもありと、相当不本意な出演だったんでしょうが、それだけ当時仕事を獲得するのは難しかったということなんでしょうね。
しかし本作品は100万香港ドルを稼ぐヒット。このあとにジャッキーを含め同じスタッフで『拍案驚奇』が作られることになります。
拍案驚奇
『花飛滿城春』に続いてジャッキーが出演した朱牧監督作品。
公開は75年12月ですが、撮影は75年の3月にはすでに終わっていたようです。
なぜ公開まで8カ月も空いたかはわかりませんが、本作品も『花飛滿城春』と同様に100万香港ドルの興行収入を獲得します。
密宗聖手
オーストラリアから香港に戻ってサモハンを頼ったジャッキーが端役出演したゴールデンハーベスト作品。サモハンが韓英傑とともに武術指導をつとめています。
香港公開は76年2月。75年の4月にはすでに撮影にはいっており、5月まで行われていたようです。
少林門
ジャッキーとはすでに『除霸』や『滿州人』、『過客(鐵漢柔情)』で共に仕事をしていた吳宇森(ジョン・ウー)監督のゴールデンハーベスト作品で、武術指導をサモハンがつとめ、ジャッキーが準主演。
当初『少林倚天拳』としてすすめられていたこの映画は75年の春頃から7月頃まで撮影され、翌年の76年7月に公開されています。
- 新聞記事:1975年04月08日『華僑日報』|『少林倚天拳』これから撮影
- 新聞記事:1975年06月01日『華僑日報』|撮影中
- 新聞記事:1975年07月09日『華僑日報』|末には完成予定
自伝「愛してポーポー」では、本作でジャッキーが武術指導をゴールデンハーベストではじめてやったと記述があるが、おそらくサモハンのアシスタントとして武術指導も行っていたのだと思います。
一般的には本作品は1974年製作でお蔵入りし、76年に公開されたと言うのが通説になっているようで、わたしもそう思っていましたが、実際は75年だったようです。いったいどこから74年説が生まれたんでしょうかね。
今回の対象作品まとめ
今回の5作品をまとめるとこんな感じです。次章ではいったん羅維までの前半部分のまとめをしたいと思います。
製作時期 | 公開 | タイトル | 製作会社 | 監督 | 武術指導 | キーマン (推定) |
---|---|---|---|---|---|---|
1974年1月~ | 1974-06-28 (韓国) | 女子跆拳群英會(※) | ゴールデンハーベスト | 吳宇森 | (成龍)、陳全 | 吳宇森 |
1974年10月 ~11月 | 1975-02-08 | 花飛滿城春 | ゴールデンハーベスト、新天地影業 | 朱牧 | — | 朱牧 |
~1975年3月 | 1975-12-05 | 拍案驚奇 | ゴールデンハーベスト、新天地影業 | 朱牧 | — | 朱牧 |
~1975年4月 ~5月 | 1976-02-20 | 密宗聖手 | ゴールデンハーベスト | 黃楓 | 韓英傑、洪金寶 | 洪金寶 |
1975年4月 ~7月 | 1976-07-15 | 少林門 | ゴールデンハーベスト、 嘉峰電影 | 吳宇森 | 洪金寶 | 洪金寶、吳宇森 |
※はジャッキーが関与していない可能性もあります。
商品情報
このサイト、ホントに詳しいですね。
この、
【第6章】さらば香港 夢破れ家族のもとに
って言う題名と副題が好きです。
なるべくしてスターになった人なんてほんの一握り。
多くのスターは、ほんの少し何かが変わっていただけで一生無名で終わったはず。
ジャッキーがスターになっていないパラレルワールドも見てみたい、そう思います。
そのジャッキーに「別の世界ではあなたは大スターになっている」と言ったら、どうなるでしょう?
だけど、スターになれない=不幸 とは限りません。
もしかしたら、そのジャッキーのほうが幸せに過ごしてるかも。