ジャッキーチェン主演ハリウッド作品『ダブル・ミッション』が先月公開され、来月にはアメリカで大ヒットの『ベスト・キッド』の公開を控えた今、ジャッキーのハリウッド作品の興行成績について再度見直してみようと思った。
実は以前から気になっていたことがあった。
wikipediaの『バトルクリークブロー』の「全米興行収入成績初登場第1位」という一文。
そう、『バトルクリークブロー』といえばジャッキーのハリウッド初進出失敗作という代名詞が常に付いて回り、ジャッキー自身の口から興行的にも失敗といわれている作品である。
相変わらずwikipediaの情報も当てにならんなと思いつつもちょっと気になっていたので、これを機にboxofficeを調べてみると・・・確かに1位だった。ただしオープニング興行成績ではあるが。
順位 | 題名 | 上映館数 | OP興行成績(US$) |
---|---|---|---|
1位 | バトルクリークブロー:The Big Brawl | 231 | 1,108,025 |
2位 | 血ぬられた花嫁:He Knows You’re Alone | 279 | 748,824 |
2作品だった・・・。
いわゆる、よく日本の配給会社が「全米初登場第1位!」という宣伝文句とともに、たいしたことない映画を売り込むアレですね。
ちなみに1位争いの相手は『血ぬられた花嫁』といういかにもB級テイストの邦題が付いている作品。
調べてみると、なんとあのトム・ハンクスの記念すべき映画デビュー作(5分程度の出演)でした。
内容はタイトル通りのホラー。
231という上映館数も、ブルース・リーの後継者として『燃えよドラゴン』に続くヒットを狙ったにしてはどうも少ない。
翌年のヒット映画『キャノンボール』や続編の『キャノンボール2』で1,800館ぐらい、時代はかわり最近は『ラッシュアワー3』や『ベスト・キッド』あたりのヒットが見込める作品になると3700館ぐらいだが、当時としてはよほどのスターが出ていないかぎりそんなものなのだろうか。
110万ドルという金額も当時のオープニング成績として大きいのか小さいのか、また、2作品というのはどうなのかわからないので、次の週も見てみることに。
次の週・・・無い。
その次の週・・・また無い。
映画ってこんなに公開されないものだろうか?
気を取り直して次の週を見ると、ありました。
順位 | 題名 | 上映館数 | OP興行成績(US$) |
---|---|---|---|
1位 | Ordinary People | 6 | 170,335 |
って1作品・・・なんかこの数字を見ると『バトルクリークブロー』の数字がものすごいように思えてきた。
そして次の週でようやく5作品発見。
順位 | 題名 | 上映館数 | OP興行成績(US$) |
---|---|---|---|
1位 | In God We Trust | 653 | 2,008,150 |
2位 | My Bodyguard | 477 | 1,371,650 |
3位 | Divine Madness | 127 | 769,787 |
4位 | Stardust Memories | 29 | 326,779 |
5位 | Resurrection | 417 | 308,068 |
これを見る限り、『バトルクリークブロー』のオープニング成績や公開館数も妥当なラインに見えてきた。
その後も各週のデータを見るが、作品ごとに上映館数や興収もかなりのバラつきがあることもわかった。
どうやら一応、オープニング成績1位であることは間違いないようだ。
しかし、タイミングのおかげでオープニング成績1位という肩書をGETしたからといって喜ぶのは日本の配給会社ぐらいで、ジャッキー本人はもちろんゴールデンハーベストにとっても気になるのはその後の興収なわけで。
結局、『バトルクリークブロー』のハリウッドでの最終興行成績は850万ドルで終える。
これは1980年の全米興行成績ランキングの68位という成績らしい。
boxofficeのデータに不備が無ければ、1980年の公開作品は161作品。
このうちの68位ということになる。
ちなみにTOP10は以下の通り
順位 | 題名 | 上映館数 | OP興行成績(US$) |
---|---|---|---|
1位 | スター・ウォーズエピソード5/帝国の逆襲 | 126 | 209,398,025 |
2位 | 9 to 5 | 910 | 103,290,500 |
3位 | Stir Crazy | 813 | 101,300,000 |
4位 | Airplane! | 不明 | 83,453,539 |
5位 | Any Which Way You Can | 1541 | 70,687,344 |
6位 | Private Benjamin | 763 | 69,847,348 |
7位 | Coal Miner’s Daughter | 437 | 67,182,787 |
8位 | Smokey and the Bandit II | 1196 | 66,132,626 |
9位 | The Blue Lagoon | 不明 | 58,853,106 |
10位 | The Blues Brothers | 594 | 57,229,890 |
68位 | バトルクリークブロー:The Big Brawl | 231 | 8,527,743 |
なるほど、たしかにヒットとは決して言えない数字だな~。
(それにしても1位のスターウォーズはさすが。現在の数字でも2億ドルはすごい。)
ブルース・リー『燃えよドラゴン』級のヒットを期待していた(のか本当に?)製作陣にとっては大きな誤算だったに違いない。
燃えドラは2,500万ドルの興行収入だったらしいので、その約3分の1程度に終わったことになる。
ジャッキー本人にしても、全然ヒットしなかったといっている『少林寺木人拳』や『レッドドラゴン』でさえ、香港の興行収入では年間ランキングの300作品中100位ぐらいにはつけてるぐらいで、ましてや当時は『蛇拳』『酔拳』『笑拳』で連続ヒットを飛ばし、『ヤングマスター』でダメ押しのスーパースターに成りあがった直後であったため、アメリカでももっと受け入れられると思っていたに違いない。たとえ作品の出来に不満足であったとしても。
ようするに既に目線が違っていたということか。
ところで、この作品の香港や日本での興行成績はどうだったかというと、
- 香港
- 約580万HKドル で4位(1位は『ヤングマスター』の1,100万HKドル)
- 日本
- 約5.2億円で 洋画部門10位(翌年公開のヤングマスターよりも金額は多い)
意外だったのは日本の興行収入。
『ヤングマスター』(4.9億円)よりも多いのにも驚きだが、もっと上位にいると思っていた。(本格的なブレイクは83年ごろか)
あと、もうひとつ気になるのが本作品の製作費のこと。
『バトルクリークブロー』の劇場パンフレットに気になる記述が。
「製作期間2年6カ月、製作費18億を投じて、今世紀最後のスーパー・ヒーローが・・・」
製作期間は置いといて、18億って一体?
円なのか、USドルなのか、香港ドルなのか書いていないが、当時のドルレートは1ドル=220円なので、まさかUSドル(4000億円)なわけはない。香港ドルだとするとたぶん日本円にして800億円。これも違うだろう。
ということはやっぱり18億円ってことかな? そんなにどこに使ってんだ?
また、ジャッキーの自伝「I AM JACKIE CHAN」には、400万ドル(2000万香港ドル)の予算と書いてある。
こちらを信頼すると、約9億円か。
さて、記憶違いの多いジャッキーと、日本の劇場パンフレットの内容。どちらを信じるかと言われれば、やはりジャッキーの言葉を信じたい。ということで本作品の製作費は9億円ということで自分的に納得。
『燃えよドラゴン』の製作費が85万ドル(約2億円)らしいが、たとえ9億円でも、どこに使ってるのかさっぱりわかりません・・・
以上、まとめると、
- 全米オープニング興行成績
- 110万ドルで2作品中1位
- 全米最終興行成績
- 850万ドルで161作品中68位(19億円)
- 香港興行成績
- 580万香港ドルで360作品中4位(2.5億円)
- 日本興行成績
- 5.2億円で洋画部門10位
- わかっている範囲内での興行成績合計
- 約27億円
- 製作費
- 約9億円(パンフでは18億円)
素人目で見ると充分儲かってる感じなんですが、ジャッキー本人や周囲の期待度からはかけ離れていたということで、興行的には失敗ということになっているんでしょう。
結論。そこそこ儲かったからといって、当時香港で一躍スターダムにのし上がったジャッキーにとっては興行的には大失敗。たまたまのオープニング1位も何の意味もなく、ロー・ウェイとの契約問題、アメリカでの慣れない生活、作品自体への不満、アメリカの各メディアに対する不満、すべてが重なり合って憎むべき失敗作となったのでした・・・。
でも、ファンにとっては逆にそんな大変な時期に撮影された愛しき1作品なのであります。
『ダブル・ミッション』のジャッキーハリウッド進出30周年という日本お得意の記念プロモにのっかり、今回『バトルクリークブロー』を再度DVDで鑑賞したわけですが、最近のハリウッド作品での動きに「そうだよな、さすがにジャッキーももう辛いよな」とかすかな寂しさを感じている管理人にとっては、当時バリバリの全盛期のアクションに慣れていた頃に不満に思ったアクションシーンも、意外と見どころがあることを再発見したのでした。
しかし製作費の使い道は未だ謎のまま・・・映画ってお金かかるのね~。
再生時間 4:11
再生時間 5:20
再生時間 1:37
再生時間 6:50
はじめまして。
いや~、すばらしい!私の積年の疑問をすべて導きだしてくれました。
そうなんですよね!しっかりヒットしているのですよね!
ビッグムーンさんはじめまして。コメントありがとうございます。
興行成績ってどうやってみれば良いか未だに悩み中です。
よくよく考えると、「興行成績-製作費=儲け」とは単純に行かないことに今更ながら気付いた始末で・・・。ラッシュ3とか1億8千万ドルで製作して全世界で2億6千万ドルってことは差引8千万ドル。でも劇場とかの取り分を考えると・・・もしかして赤字なのではと勝手に心配しています。(だから4の話が出てこなくなったのかな?)
kungfufanさん、こんばんは。
バトルクリークブローはアメリカ初進出ですから確かに重要ですよね。
この作品では東宝東和にガセっぽいのですが、公開当時ジャッキー監督作という話になっていました。
(パンフなど)
どうもIMDbではそんなデータにはなっているものの「プロテクター」のように
ジャッキー監督版なんてありはしないということだと思ってはいますが。
醒龍さんコメントありがとうございます。でもジャッキーが監督だったらもっとマシな作品になってたでしょうね、ハリウッドで成功したかどうかは別としてですが。最近ようやく監督ってやっぱり大事だよな~と今更ながら感じるようになりました。「プロテクター」も最近ひさびさに見たんですが(ジャッキー版のほう)、前半と後半ではまるで別作品になっていてウケました。(公開当時は意味不明でしたが)