ハリウッド作品だけでなく、久しぶりに中国作品に出演したジェットは、その『英雄 HERO』で中国市場を制覇。
依然として出演オファーが止まない中、ジェットが選んだベッソンの作品は、初めてとも言える「難役」への挑戦となった。。。
山積みの製作予定と中国の壁
3月から始まる、ジョエル・シルバーとの新作『ブラック・ダイヤモンド』までのひと月ほどを使って、さらなる次回作への準備を進めるジェット。
かねてから計画されていた、ジャッキー・チェンとの共同プロデュースによる、初の共演作品については、ジェットと馴染みが深い『キス・オブ・ザ・ドラゴン』の脚本家、ロバート・マーク・ケイメンが執筆中で、今年中には撮影を開始する予定となった。
しかし、ジェット自らの原案により製作が予定されていた『モンク・イン・ニューヨーク』は、製作会社に決まったはずのミラマックスが、その内容があまりにも宗教的すぎることなどから難色を示し、プロジェクトから降りてしまう。
また、3月からチョウ・ユンファ演じる僧侶がニューヨークで活躍するという『バレットモンク(Bulletproof Monk)』という、類似作品の製作が決まっていたことも影響していた。(『バレット・モンク』は1993年に発表された同題の前衛的なコミックを元にした作品。)
これを受けてジェットは、それならばと、友人と共に出資することを決め、この企画を自らの手で実現させることを発表した。
さらに、以前ジェットが降板した『グリーン・ディスティニー』の、前日譚にあたる作品への出演も噂されるなど、ジェットの売れっ子ぶりはますます加速していった。
3月11日、ジョエル・シルバーとの新作『ブラック・ダイヤモンド』の撮影がスタート。
ジェットは事前に自らのサイトの掲示板を利用し、この映画で戦う相手役の投票を実施。その結果から、マーク・ダカスコスを相手役に抜擢していた。
この作品は異例とも言えるスピードで撮影が進み、トム・アーノルドと入ったケージのファイトシーンなどは、香港作品であれば2か月ほどの時間をかけるシーンだったが、8~10日ほどで完了。
最後まで撮影は快調に進み、翌4月にははやくもクランク・アップを迎えた。
ちなみに、自らの出演作が悉く中国で公開されないことに苦慮したジェットは、「退役した中国人の警官が核物質をアメリカで売ろうと持ち込み、ジェット演じる中国人警官がその人物を追いかける」という元々の設定を、実際に核物質を持たない台湾という設定に置き換えたが、やはり中国での公開は実現しなかった。
『ブラック・ダイヤモンド』基本データ
【配給会社】 ワーナー・ブラザーズ
【製 作】 ジョエル・シルバー
【監 督】 アンジェイ・バートコウィアク
【武術指導】 元奎(コーリー・ユン/ユン・ケイ)
【出 演】 ジェット・リー(李連杰)、DMX、アンソニー・アンダーソン、マーク・ダカスコス
【撮影期間】 2002年3月11日~4月
【製 作 費】 $25,000,000~$30,000,000(30~36億円)
【公 開】 アメリカ:2003-02-28、香港:2003-03-20、日本:2003-03-29
【興行成績】
日本:$1,551,193(1.8憶円) オープニング成績7位
全米:$34,712,347(41億円) 年間ランキング82位 オープニング成績1位
中国市場の制覇
『ブラック・ダイヤモンド』の撮影を終えてから4カ月余り。
8月に、以前から企画が進行していた『ファースト・キング』の台本がようやく書き上がる。
しかし、その内容は
「ジェットリーが演じる始皇帝が、現世に生まれ変わる。彼はその墓や、彼の古代での強敵が埋葬されている寺に行かなければならず、戦わなければならない。そして最終的には自分自身と戦うことに・・・」
というもので、同じく始皇帝が登場する『HERO(英雄)』や、自分自身と闘う『ザ・ワン』、そして過去の人間が現世にあらわれる、ユンファの『バレット・モンク』など多くの作品との類似点があった。そのため、完全に立ち消えはしなかったものの、実現はかなり厳しい状況になってしまった。
またこの頃、3年ほど前から進めていた、ソニーのプレイステーション2用ゲームソフト『Rise to Honor』の企画がようやく実現。翌年の発売に向けて開発がスタートする。
このゲームはプレイヤーが主人公キャラクターを操作して敵を倒していくというアクション・ゲーム。主人公キャラはジェット自身の動きをモデリングし、動きを忠実に再現するというものだった。
さらに10月には、ワーナー・ブラザースがかつてジェットが主演した香港映画『ヒットマン』のリメイク権を獲得するなど、その影響力は広がる一方だった。
10月、ついに、ジェットが主演した『HERO(英雄)』が中国の一部で公開。
続けて、12月には中国全土で公開されるや、驚異的なヒットを飛ばす。
最終的には2億5,000万元(約36億4千万円)を稼ぎだし、この年中国で公開された映画のTOPに輝いた。
香港でも同様にヒットを記録するも、アメリカでの公開はまだ決まらなかった。
北米での配給権を持つミラマックスが、公開に消極的で、このヒットを見てもまだ公開には踏み切れなかったからである。
ベッソンとの新たなる挑戦
ジェットのもとへやってくる様々なオファーの中には、『キス・オブ・ザ・ドラゴン』で意気投合したリュック・ベッソンの名前もあった。
あの作品以降も、たびたび誘いを受けていたのだが、どれも同じようなアクション映画ばかりで、ジェットは気が進まなかった。
今まで演じるチャンスがなかったような役を求めていたからだ。
そこでジェットは、ベッソンに対し「暴力だけが唯一の解決法ではない」というメッセージを伝える。
するとわずか2日後、ベッソンが新たなアイデアをジェットのもとへ持ち込んだ。
「じゃあ、音楽によって救われる犬を演じるっていうのは、どうだい?」
こうして、ジェットの次回作『ダニー・ザ・ドッグ』が作られることとなった。
ジェットがこの作品を通じて伝えたかったこと。
それは、「暴力しか知らない人間は動物と変わらない」ということだった。音楽や友情を通して、冷たく暗い人生にどうやって光が射すのか。。。
「愛や責任がともなわない武術は、ただの暴力でしかない。」と。。。
しかし、初めてとも言える難役。
相当な準備が必要だった。
まずはじめに、撮影の2か月前から、演技の女性コーチをロンドンから呼び寄せ、徹底的に訓練を行った。そして、精神年齢が10歳にも満たない主人公を演じるため、あらゆる部分をそぎ落とし、数週間かけて感情移入に取り組んだ。
また、多くの犬についてリサーチをし、観察を続けた。
アクションについても、これまでのような華麗なジェット・リー・スタイルではいけなかった。
そこで、これまで組んできた武術指導者の中から、今回は96年の『ブラック・マスク』以来、6年ぶりに袁和平(ユエン・ウーピン)にアクション指導を頼むことに。
ウーピンとジェットは、演じる主人公ダニーがどのような人物であるか議論を重ねた。<br />最初は猛犬のように荒々しく、とても激しくて感情的な振り付けを。そして徐々に人生を理解しながら、自分自身の感情や動きをコントロールできるようになっていく。最終的には人を傷つけたくない、戦いをやめたいという感情の変化や、人間的な成長をアクションで表現しなければならなかったからだ。
一方、ベッソンは『トランスポーター』の新鋭ルイ・レテリエを監督に抜擢し、ベッソン自身とロバート・マーク・ケイメンが脚本を担当。そして重要な相手役にモーガン・フリーマンを配し、準備を進めていた。
そして「年は明け、2003年1月10日。『ダニー・ザ・ドッグ』の撮影がいよいよイギリスとフランスで始まった。
『ダニー・ザ・ドッグ』の撮影中も、ジェットの話題は尽きることがなかった。
3月には、『HERO(英雄)』で共演したドニー・イェンが『チャイニーズ・ブラザーズ(Chinese Brothers)』でふたたびジェットと共演することを明かす。
『チャイニーズ・ブラザーズ』はジョエル・シルバー製作で、ジェット・リー、ドニー・イェン、チョウ・ユンファという、豪華キャストが3兄弟を演じる作品で、6月からの撮影開始予定だった。
またこの月には、1年前に撮影された『ブラック・ダイヤモンド』が全米公開。
ジェットの主演作としてはアメリカで初めてオープニング成績で1位を記録、最終的に3,500万ドルを稼ぎ出した。
4月には、中国・香港で爆発的なヒットを飛ばした『HERO(英雄)』が、14部門にノミネートされていた香港金像奨で技術部門を中心に7部門を受賞。
さらにジェットの新しいプロジェクトに『レイバー・デイ(Labor Day)』が浮上。
これはディスニー製作で、ドイツの映画監督ロベルト・シュヴェンケがメガホンを取ることに決定しており、麻薬王に妻を誘拐された地方検事補が、ジェット演じる妻の元彼の協力を得て、妻を救出するというもので、撮影は2003年下半期を予定。
そして、5月2日、約4か月間の『ダニー・ザ・ドッグ』の撮影が終了。
中国での公開は、これまでの作品のようにギャングや警察官ものではないため、今回こそは、と期待されたが、またしても公開は実現できなかった。。。
『ダニー・ザ・ドッグ』基本データ
【製作会社】 ヨーロッパ・コープ
【脚 本】 リュック・ベッソン
【監 督】 ルイ・レテリエ
【武術指導】 ユエン・ウーピン(袁和平)
【出 演】 ジェット・リー(李連杰)、モーガン・フリーマン、ボブ・ホスキンス、ケリー・コンドン
【撮影期間】 2003年1月10日~5月2日
【製 作 費】 $45,000,000(53億円※製作当時)
【公 開】 フランス:2005-02-02、アメリカ:2005-05-13、日本:2005-06-18
【興行成績】
日本:$3,022,463 年間ランキング87位 オープニング成績6位、全米:$24,537,621 年間ランキング102位 オープニング成績3位
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【李連杰幻作品】NO.19
『ファースト・キング』 -
【李連杰幻作品】NO.23
『チャイニーズ・ブラザーズ』 -
【李連杰幻作品】NO.24
『レイバー・デー』
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