許冠文／マイケル・ホイ【スター名鑑】

「冷面笑匠」と呼ばれ、70年代半ばから80年代の香港映画市場を席巻したコメディスター、香港映画界の重鎮である。ブルース・リーの死後に低迷していた香港映画界の復活と新時代への幕を開き、弟のリッキー・ホイ（許冠英）、サミュエル・ホイ（許冠傑）とともにホイ兄弟として数々の興行記録を打ち立てた。

ホイ家の長男として生まれ貧しい幼少時代を送る。60年代の大学生時代からテレビ局の仕事に携わり、68年に司会者としてデビュー。71年に弟サミュエルとともに司会を務めたバラエティ番組『雙星報喜』が大人気となり、一躍香港を代表する芸能人となる。

72年にショウ・ブラザースの巨匠・李翰祥（リー・ハンシャン）監督に見出され、風刺喜劇『大軍閥』で映画初出演にして主役デビュー。李翰祥の作品に続けて出演し俳優としても成功を収める。74年に兄弟と独立プロダクション「許氏影業公司」を設立、ゴールデン・ハーベストと組んで3兄弟主演による『鬼馬雙星（Mr. Boo!　ギャンブル大将）』を製作、香港映画史上最大のヒットへ導く。自身で監督も務めた。

以後は兄弟作品を次々と大ヒットさせ、香港映画の歴代記録をことごとく更新。興行成績ランキングのライバルでもあるジャッキー・チェンやサモハン・キンポーらとともにゴールデン・ハーベストの黄金期を支えた。90年代は弟サミュエルの引退などもあり映画出演は控えめだったが、2000年代半ばからは再び積極的に芸能活動を行っている。

1942年

中国・広東省で長男として生まれる。

1946年

弟の許冠英（リッキー・ホイ）生まれる。

1948年

弟の許冠傑（サミュエル・ホイ）生まれる。

1950年

中国の政情不安から家族で香港へ移住。

1950～1960年代

ブルース・リーをはじめ著名人を数多く輩出している溂沙書院（香港ラサールスクール）へ通い中等教育を受ける。

家庭が貧しかったこともあり、その後聖芳濟書院で3年間英語の非常勤講師を務める。

学費を貯め香港中文大学へ進学。大学2年の頃からテレビ局の仕事に関わり、昼はテレビ局の仕事、夜は学校へと通った。

1968年

無線電視（TVB)の『星辰杯校際問答比賽』で初の司会を務めるなど、多くの番組で司会として活躍。

1971年

末弟のサミュエル・ホイと共同司会を務めたバラエティ番組『雙星報喜』が大人気となり、一躍香港を代表する芸能人となる。

1972年

俳優としては全くの未知数だったものの、ショウ・ブラザースの巨匠・李翰祥（リー・ハンシャン）監督が周囲の反対を押し切って、風刺喜劇の『大軍閥』で主役に抜擢、スクリーン・デビューを果たす。作品はブルース・リーの2本の主演作に次いで香港興行収入ランキングで年間3位のヒット作となった。

大学の同級生である鄭潔英と結婚。

1973年

同じく李翰祥監督の『一樂也』に主演。この作品も4位（総合6位）とヒットを記録。

1974年

ショウ・ブラザースで李翰祥監督『醜聞』、 『聲色犬馬』に出演。後者は4位（総合9位）とヒット。

弟たちと共に、独立プロダクション「許氏影業公司」を設立。自社とショウ・ブラザースの共同製作を希望し、邵逸夫（ランラン・ショウ）へ30万香港ドルの出資を希望。しかし邵逸夫は脚本を貶した上に100％ショウ・ブラザース製作でなければ駄目だと共同製作と出資を拒否。これに怒ったマイケルはゴールデン・ハーベストと交渉、鄒文懐（レイモンド・チョウ）は一つ返事でOKを出した。

こうして製作された『鬼馬雙星（Mr. Boo!　ギャンブル大将）』ではマイケル自身が初監督、弟のリッキー・ホイとサミュエル・ホイとともに主演も務め、2位の220万香港ドルに圧倒的な差をつける625万香港ドルという大ヒットを記録し年間1位を獲得。それまでのブルース・リーによる香港映画歴代記録を更新し、その後香港映画界を席巻する「ホイ兄弟」ブランドが誕生した。

その後、邵逸夫は大金を積んでマイケルと交渉しようとしたが、マイケルは交渉の席にすら着かず、ショウ・ブラザースはブルース・リーに続いてまたしても大スターの確保に失敗する。

1975年

兄弟出演2作目の『天才與白痴（Mr.BOO! 天才とおバカ ）』が年間興行収入1位（総合では2位）とまたしてもヒットを記録。

1976年

兄弟出演3作目『半斤八兩（Mr.Boo!ミスター・ブー）』が歴代興行収入記録をさらに大幅に更新する850万香港ドルを突破、3年（3作）連続で香港映画のトップを獲得した。

1977年

この年は主演作が無かったものの、弟リッキー出演の『發錢寒（マネー・クレイジー）』が年間興行収入2位（総合5位）とこちらもヒットを記録する。

1978年

兄弟作品4本目の『賣身契（Mr.Boo!　インベーダー作戦）』が、この年新たなクンフー・スターとして大ブレイクしたジャッキーチェンの『酔拳』を抑え、4度目の香港年間興行収入ランキングトップを獲得。

1979年

日本でこれまでのヒット作品（『天才與白痴』は除く）が『Mr.Boo!』シリーズとして劇場公開される。

ジャッキー・チェンがゴールデン・ハーベストへ移籍。以後同じ社内で激しい興行合戦が繰り広げられる。ちなみにジャッキー・チェンの自伝によると、この頃ゴールデン・ハーベストでのホイ兄弟の1作品の出演ギャラはひとり10万香港ドルだったらしい。

1980年

ジャッキー・チェンと『炮彈飛車（キャノンボール）』で初共演。世界的な大ヒットを記録するが、２大スターを起用したにもかかわらず香港では8位と不本意な成績で終わる。（公開は翌８１年。）

1981年

3年ぶりの兄弟作品第5弾『摩登保鑣（新Mr.Boo!アヒルの警備保障）』がまたしても大ヒット。前年にジャッキーチェンが『ヤング・マスター　師弟出馬』で1,000万香港ドルを初めて越え、1,100万香港ドルに塗り替えた歴代興行収入記録を大幅に更新する約1,800万香港ドルを記録。2位に倍近い圧倒的な差をつけ首位を獲得、ゴールデン・ハーベストとホイ兄弟の黄金時代を築く。

また、この作品でマイケルは第1回香港電影金像奨の最優秀主演男優賞を受賞している。これ以外にマイケルは金馬奨に1回、金像奨に6回ノミネートされているが、受賞はこの1回。

1982～1984年

末弟のサミュエル・ホイが主演した『最佳拍檔（悪漢探偵）』、 『最佳拍檔大顯神通（悪漢探偵2）』、 『最佳拍檔女皇密令（皇帝密使）』の3本が3年連続でトップを獲得する。

1984年

ふたたび3年を空け『鐵板燒（新Mr.Boo!　鉄板焼）』を発表、結果は9位とまずまずの成績をあげる。

1985年

主演作としては11年ぶりに自身で監督を行わず「ポムポム刑事」シリーズのジョン・シャムとリチャード・ンとのコラボ作品『智勇三寶（帰って来たMr.BOO！！ニッポン勇み足）』に主演するも結果は8位。この年は1位から4位までがジャッキー・チェンやサモハン出演作の独占となった。

1986年

再び自身で監督を務めた『歡樂叮噹（新Mr.Boo！　お熱いのがお好き）』は15位と不本意な成績に終わるも、 陳欣健（フィリップ・チャン）監督による『神探朱古力（新Mr.Boo！　香港チョココップ）』は5位とヒット。

この年、弟のサミュエルが映画のロケ中に高山病と肺炎を患う。

1988年

2年ぶりの主演作『雞同鴨講（ホンコン・フライド・ムービー）』が4位とヒット。

1989年

前作と同じく高志森（クリフトン・コウ）監督による『合家歡（ミスター・ココナッツ）』が3位と好成績を収める。

アメリカ・ラスベガスで最優秀コメディ男優賞を受賞。（『ホンコン・フライド・ムービー』）

1990年

およそ9年ぶりとなる3兄弟作品『新半斤八兩（フロント・ページ）』が3位のヒットを記録。ホイ兄弟の健在ぶりをアピールした。

1991年

弟のサミュエルは当時歌手としての活動も順調で、「歌神」と呼ばれ香港音楽界のスーパースターとして活躍中であったが、86年に患った病気や「家族と自由で静かな生活を送りたい」という意向から芸能界を引退。

1992年

自ら監督を務めた『神算（マジック・タッチ）』が7位とヒット。

1998年

引退していたサミュエルがミュージカルの監督として復帰。

2004年

1974年のヒットコメディ『鬼馬雙星（Mr.Boo！ギャンブル大将）」のギャグや登場人物を踏襲したリメイク作品『鬼馬狂想曲（新世紀Mr.Boo! ホイさま カミさま ホトケさま）』が製作され、『カンフーハッスル』に次ぐ2位を獲得。マイケルもノンクレジットで特別出演した。

また、『煎釀三寶（Mr.BOO！花嫁の父）』では主演を務め、8位の好成績を残す。

再び活動が活発化したこの年、サミュエルも本格的な復帰を宣言。翌年にかけて大規模なコンサートツアーを行い、リッキーも同行した。

マイケルはこの年、香港政府から治安判事（太平紳士/justice of the peace）に任命されている。芸能人としては初のことで、その後アンディ・ラウも任命された。

2005年

来日しDVD-BOXのPRを行う。

「鬼馬棟笃笑」と銘打ったトークショーを開催。

2006年

リッキーが環星娯楽と契約し歌手活動を再開する。

ジャッキー・チェンと25年ぶりに再共演した『寶貝計劃（プロジェクトBB）』が2位とヒットを記録。

さらにこの年、無線電視（TVB）で放送された『一擲千金』（香港版ディール・オア・ノー・ディール）第1シーズンの司会者として、久しぶりに古巣TVBの番組に出演した。

2007年

マイケルの日本語吹替え俳優である広川太一郎と来日時に初対面。広川氏は翌年亡くなった。

2010年

リッキーが心臓の手術を受け、ペースメーカーでの生活を余儀なくされる。

2011年

11月8日、弟リッキーが香港の自宅で心臓発作のため急逝。

トークショー「棟笃笑2最後警告」、「鬼馬狂想SHOW」を開催。

2012年

第4回沖縄国際映画祭に長編プログラム部門の審査員として招かれる。（メッセージ）

★★★【余談】ホイ3兄弟の香港市場での活躍★★★

長男マイケルを中心にホイ兄弟は香港映画市場を席巻。ブルース・リー亡き後の香港映画界に活況をもたらせた功績は計り知れません。

70年代後半から80年代前半にかけては、ジャッキー・チェンを中心にサモハン・キンポー、ユン・ピョウらの通称ビッグ3と激しい興行成績バトルを繰り広げています。

★★★【余談】当サイト・メインアクター達との関わり★★★

激しい興行バトルを繰り広げていた両陣営でしたがともにゴールデン・ハーベストの黄金期を築いたスター達、その争いも殺伐としたものでは無かったのでしょう。

マイケルとジャッキーはご存知の通り81年の『キャノンボール』で共演。そして25年ぶりに『プロジェクトBB』で再共演を果たしています。

リッキーはメインキャストでは無いものの、ジャッキー主演の『プロジェクトA2』や『奇蹟 ミラクル』に出演。他にもジャッキー・プロデュースの『クラッシュ・エンジェルズ 失われたダイヤモンド』や『レディ・スクワッド』シリーズなどにも顔を出しています。